JAISTの学生生活を振り返る。





TL;DR

2年間のJAIST生活を振り返るよ。

どんな人におすすめな大学なのかまとめていくよ。



Who am I?

地方私大の情報工学系卒。
卒論テーマはネットワーク関係の性能評価をしていた。

2017年にJAIST入学。情報科学系のセキュリティ・ネットワーク領域の研究室に配属。
ネットワークやIoTをテーマに研究していた。

修士課程修了後、現在はメーカー系の研究開発職へ。



JAIST is 何?




日本で最初に設立された大学院大学(同時期にNAISTも開学)。
(ちなみに大学設立委員会が東工大にあったためなのか、東工大出身の教員が多く在籍する)

メインキャンパスの石川サイトと社会人学生のための品川サイトがある。講義アーカイブや遠隔ミーティングの設備が整っているので、完全リモートで就業しながら修士や課程博士を修了することができる。

sourceforgeやOSSなどのミラーサーバを運営している。

1研究科1専攻体制で、情報科学系、マテリアルサイエンス系、知識科学系、融合科学系の4分野がある(2021.9.8追記)。

学部を持たない大学院課程のため、様々な大学出身の多種多様なバックグラウンドの人が入学してくる。ずっと情報科学付近を学んできた人や、社会学系の文系出身者、医学科出身者もいる。
多様性や国際性を重視しているため留学生がかなり多い(現在4~5割程度らしい)。
実はここ数年で倍率が上昇しているらしく、受験に落ちた人を何人も聞くため、受ければ必ず受かるという状況ではない。





JAIST生活を振り返って

ここでJAIST生活について、大きなイベントをピックアップしながら時系列で並べたいと思う。

M1 4月~6月

・入学生の交流会

入学最初には新入生交流会が催された。JAISTに来た学生の多くは横のつながりが皆無なため、孤立を防ぐことはドロップアウトをする人間を減らすことにつながる。

・仮配属

仮配属が始まる。JAISTは入学前に研究室を内定させておく「研究室配属内定制度」がある。この先生に師事したいという強い意志や考えがなければ、入学後に配属先を決めることになる。個人的な感想では、先生の印象や研究室の雰囲気、研究室の先輩方などの要素は今後の研究(中心の)生活において大きな影響があるため、じっくり見て考える事ができる入学後の配属内定をおすすめしたい(人気の研究室に配属希望の場合は早期のほうが良いかもしれない)。仮配属は3ヶ月程度の短い期間だが、最初のターム期間とかぶるため、仮配属メンバーと試験対策などを行う事が多い。そのためここで出会った仲間はJAISTの2年間の付き合いになることもある。

・1の1期

JAISTは1年間4ターム制で、通常の前期後期を更に半分に割る。したがって1タームあたり2ヶ月となり、1週間に2コマ同じ授業が行われ、中間試験と期末試験が一月毎に訪れる。これは良い面もあって、短い期間でサイクルを回すため記憶から抜けていくよりも先に試験を受けることができる。初学の内容だと大変かもしれないが慣れるとこれはこれで良い(退屈な講義を期間的に圧縮できる)。

・イノベーション講義

M1の1の1ではイノベーションに関する講義が行われる。アイデアを生み出したりする訓練のための講義だが、周りではかなり不評の講義。これをとらないと卒業できない。眠気との戦いだし、グループワークなので作業負担が特定個人に偏りがちだが、今の評価上ではグループで評価される(とくに悪い成績がついていたわけでもないので気にしていないが)。

JAISTは部活が少ないが、無いこともない。野球、フットサル、バドミントン、茶道、プログラミング、etc…
研究活動は運動不足と表裏一体なところもあるので可能なら入っておくことをおすすめする。



M1 7月

・本配属

本配属が始まる。本配属のために研究室見学に参加し、研究室訪問レポートを書く。これと1の1期の成績をもとに配属研究室が決まる。殆どが第3希望までに収まる。



M1 8月

・インターンシップ

現在の就活戦線では、インターンシップを通じて就活すると良い面がかなり多くあるため、応募して参加する。ゼミ活動などに参加できなくなるため、指導教員と交渉する必要がある場合がある。
応募は各自行うが、マイナビやリクナビ経由で申し込むことが多いだろう。キャリアセンターに募集が来ている場合があるので参考にできる。

JAIST卒業要件の一つに、2週間以上のインターンシップ参加&レポート提出か、副テーマの研究がある。副テーマはある程度自分の研究分野から離れた内容のテーマを選び、指導教員、副指導教員とは違う第3の指導教員とやり取りする(最後の修論審査委員に名前を連ねることになる)。
学生の多くは内容が重くなりがちな副テーマ研究よりインターンシップを選ぶことが多いが、教員の一部にはインターンシップで単位をとることに懐疑的な人もいる。



M1 12月〜3月

残りの必要単位を揃えながら、研究室の方針に従って学習、論文調査をしつつ研究テーマを選択する。



M1 3月

・プロポーザル提出&就活

M1最大の試練、研究計画書(リサーチプロポーザル:RP)の提出が末日にある。2017年度入学者は、200番代の講義(一般科目)を3科目6単位取得し、先に述べたイノベーション講義の単位を持っている人が計画書を提出できる。コレ自体のハードルは以前の3研究科制度時代と比べて高くない。

期限までに提出できなければ自動的に卒業が3ヶ月遅れる(JAISTは年4回の卒業タイミングがある)。

加えて、修士で就職を目指す人は3月1日から就活が本格化する(この記事が公開され、新たに入学する学生には政府の新ルールが適用されていると思うが)。

なかなかパスしないRPと就活が重なり、すごくハードな一ヶ月を過ごすことになる。

入学して1年間、単位を取り終わり、節目を迎える頃にはもう折り返し地点。折角慣れたと思いきやもう就活。



M2 4月~6月

・(続)就活

人によっては就活を継続する。
この間、研究はなかなか進められない。これは就活の面接にも影響する。

終われば晴れて本格的に研究に取り組める。実際のところ開放感がすごいのでなかなか研究に手をつけられない人も多く居たが。



M2 7月~翌年2月

・研究&学会

研究や学会に邁進する時期。

注意するべきはJAISTの修士研究は、RPが提出されて1年間は研究を行うということになっているが、実際1年もする時間はない。なる早でM1のときから手をつけていたモノを形にしていくことになるが、やはり時間の問題で学会に参加することが難しくなる。しかし10月くらいの学会を目指して、最初のゴールを設定するべきだと思う。中間地点で論文の形にできる成果があることは修論執筆時期になると代え難い安心材料だし、研究をまとめる行為は自分の研究に客観的になることができる。研究室外、学外の人に研究を説明することは重要な学びを得る場である(ここで受けた質問は収論の厚みになり、また修論発表会のときにも聞かれる)。

・修論発表会

2月になると修論の提出、翌週に発表会を迎える。

他研究室の発表を一通り聴いて思ったが、こんなので発表会出るなよ!と思うくらいクオリティの低い人がいる。案の定、卒業できない。一定数乗り越えられない人がいる。

発表の翌週末くらいに最後の審判が降りる。名簿に学籍番号があれば晴れて修了である。

かつては悶着あって卒業可否のちゃぶ台返しがあったそうだが近年は聞かなくなったらしい。



M2 3月

・虚無

特にやるべきことはない。

発表が間に合わなかった研究成果を研究会に出すもよし、後輩のために資料を作ることもあるだろう。

指摘された修論の訂正項目のことなど忘れたまま遊びに行くこともよくある。

世の中がこんなに広く平和であったことを思い出す時間である。



感想

生活環境として

石川県能美市(のみ-し)という超田舎の山の上に隔離されているため、車がほぼ必須である。なければ友人の車で買い物をする。ヤマキシや辰口周辺、野々市あたりでだいたいそろう。
あるいはJAIST Shuttle Busで小松駅まで行ってそこから出ている小松イオン行きのバスに乗って買い物をする。ほかはAmazonに頼る。

自然豊かなので、毎年クマ出没に関するメールが学内メールで流れる。近隣の山の中で鹿は2度くらい見た。
虫が多いので同期は悲鳴をアゲていた。

気候は北陸なので、梅雨がすこし短い。冬はジメジメしていて窓が結露しがち。雪が多く晴れている日がそもそも少ない。春の花粉の飛散量が少ない。
大雪は4~5年に一度の周期で訪れる(Dのパイセンが今年は来るよとピタリと言い当てた)。
スタッドレスタイヤがなければほぼ100%事故る(大学正門出口から先は坂道のため)。
2018年2月の大雪(例年はこんなに降らない)



寮が学内にあるので歩いて登校できる。食事は学食と学内コンビニ(ヤマザキ)。学食は安くもなければ特に美味しくもない。ヤマザキの唐揚げ弁当がコスパがいいと言って3食食べている人が居た。

最近は寮の抽選に漏れる人も多いので近隣のアパートに住む人が多い。
その場合は外界(JAISTの山の麓)か、野々市、小松市周辺が多いようだ。
そもそもの家賃も安く(2~5万)、駐車場代も(外界に住んでいて)1800円だった。
外界周辺のアパートは入学時期が近づく2月あたりになるとほとんど埋まっており、早めの内見と契約が必要である。


学習環境として

大学の講義のほぼすべてで教科書は必要なかった(情報科学系の話)。
授業もすべて映像アーカイブ化されるため、出席しなくても授業を聴講することができる。
しかしその場合の単位習得率はしれている。

講義の難易度は高くないが、自分のバックグラウンドに合わせて選択しないと割と単位を落としがち。

同じ講義は年2回行われるが、片方は日本語、片方は英語で講義される。テストは日英好きな言語を選択できるので、1年あたり2回チャンスがある。


研究環境として

大学の周りに遊ぶところがないのである意味集中できるし、(ポジティブな意味で)諦めさえつく。

ほぼ専門書のみで構成された大学図書館があるため、資料を集めるのも苦労しない。
また、IEEEやACMなどの主要な論文サイトに無料でログインできるため、論文をダウンロードしたい放題である。

自分の研究テーマによって、必要な機材が何であるかが決まるため一概には言えないが、JAISTの教授陣は比較的多くの研究予算を持っている事が多いため、大抵の必要物は買ってもらえるorあるだろう。

JAIST独特な設備として、スパコン3台(毎年1台が更新)、電子顕微鏡などがある。また近隣にNICTStarBED技術センターがあるため、研究内容によっては利用することができる。

情報設備としてこれほど優秀な環境も珍しいと思う程度に充実している。
自分の研究に関してはもったいないくらいであった。



総評

履歴書に書く「北陸先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 先端科学技術専攻 博士前期課程」の呪文は、長い割に自分の専門の情報を1ミリも含んでいないので最悪である(多くの履歴書で溢れ出るので2行を消費する)。

立地や知名度は良くないがそれを補って余りある研究環境がある。JAISTはいいぞ。

卒業の日のJAIST(この日くらい晴れてくれてもいいものだが北陸はいつもこんなもの。)



その他

Twitterなどで質問がいくつかあったので残しておきます。

Q:JAISTは修了しにくいか?

そうでもない。
ダブったり、退学する人はそもそもやる気がなかったり、心が折れた人である。
それ以外には計画的に留年する(Mα制度を用いると2年分の授業料で3年在籍可能)人も一定数いる。

楽ではないが、真面目にこなし、指導教員とコミュニケーションとって研究を進めれば修了できる。


 Q:どの様な人に向いているのか?

環境を変えたい人。
専攻を変えたい人。
修行(研究に没頭)したい人。


都会の喧騒だとか、遊びの誘惑を廃して一度くらい勉強や研究に没頭したい人に向いている。
また研究予算や研究機材等の環境やサポートは旧帝大と遜色ないと思う(旧帝出身者談)。

独自の奨学金や授業料免除制度などが充実しており、大抵の学生にとって満額の授業料を支払うことは少ないのではないだろうか。

 Q:向いていない人とは?

環境が変わることが嫌な人。
田舎暮らし。
趣味などの活動で県外への移動が多い人。

修行的な要素が強い半面、それが苦になるならきついと思う。
そうは言いつつも忙しいなりに楽しかったし、友人にドロップアウトした人は居なかった。

IT系の勉強会やイベントは大都会で開催されがちなので、交通費や移動時間の面から参加を見送ることも多かったのも事実。


Q:就職に不利でないか?

IT人材は不足しがちで、特に情報系修士は世間一般に重宝される傾向があるので、そもそもあまり困らない。
一般応募する場合は、SPI試験の対策とESをうまく書ければ問題ないと思う。SPIの試験結果を提出する3月頃はRPの提出と重なるため対策しづらい問題もある。

また修士卒では研究に関して就活面接で根掘り葉掘り聞かれるが、RPが完成するのが3月末日なのであまり語れないという問題がある。そこはJAISTの特性を面接官に理解してもらうか、うまく乗り切るしかない。

大学の名前が不利になることはほぼない。JAISTの名前は大手の情報系(通信、IT系、メーカー)ならほぼ知られている(修士の学生に大学の名前でフィルターかけてどうするって思うが。)

自分の観測範囲の学生においては、情報、マテリアル、知識科学の専攻の関係なく東証一部上場の大手企業に通っている。
GAFAMに受かった人は知らないが、そもそもそういったチャレンジャーが少なかった(OBには転職でGAFAMに入った人はいるが、もはやJAIST関係なく実力の問題)。


 Q:学修プログラムとは?

学修プログラムは学位の履修プログラムとは別にある専門のプログラムである。必要な単位を履修すると修得することができるが、それらの単位は卒業要件と重ねて計算できるため特に負担はない。
興味のある分野を可能であれば履修を勧めるが、それなりに苦労を伴う。
自分は高信頼IoT技術者育成プログラムを履修した。


 Q:入試難易度について(2021.8.21追記)

先日、Twitterを見ていたところ、JAISTは翌年度4月入学試験だけで年4回の試験を設けていることなどの理由から「人が足りない」などの言説が流布されているようだった。
これに関しては、入試倍率を参考にしてみる。以下のデータが参考になる。
雑な調査ではあるが、倍率の観点から見れば他大と同等とみても良い気がする。決して人手(受験者)不足ではないし、受ければ受かる大学院というわけではない。私見だが、年4回の試験は、通常の大学と違い幅広い学生を受け入れるために実施しているものと考えられる。
※もしかしたら知名度も改善されつつあるのかもしれない。


 Q:入試試験について(2021.9.8追記)

私が受験したのは2016年の第1回目入試(7〜8月頃実施)だった。試験は事前提出した小論文と面接試験だった。この点は、2021年試験でも同様らしい(JAIST)。

小論文のテーマ

テーマは、学部時代の卒論テーマを発展させた内容をベースに記述した[1]。そのため、小論文は、研究背景、提案手法、評価方法について一通り記載した。
本来であれば、小論文のテーマは、JAIST進学後の研究テーマとなり得る可能性があるので、希望研究室の教授や学生と連絡を取り、内容の相談するほうがベストである[2,3]。

[1] 進学後に実際に取り組む研究テーマが小論文と異なる(変化する)ことがほとんどなので、変に気負う必要はない。
[2] 希望先研究室があるのであれば、見学を申し込むと良い。メールで問い合わせるか、JAISTで行われる説明会のあと見学できる可能性がある(アポをとっておくとなお良い)。また、入学前研究室内定制度がある場合は積極的に利用すると良い。
[3] 可能ならば見学時に研究テーマ相談の相談をすると良い(メールでも良い)。もしかしたら親切な学生が添削をしてくれる可能性がある(かも)。

面接試験

小論文の内容をベースに、卒論の進捗状況などをプラスして発表スライドを作った。
質疑応答は、評価方法についていくつか質問があった。学会の質疑応答タイムを想像すると近しいものがある[4]。
他には、ホワイトボードを使った簡単な数学の問題や、英語での一問一答があった[5,6]。

[4] 事前に十分練習して時間を見積もっておくこと。学会等で時間制限をオーバーするのはかなり顰蹙を買うので。
[5] 入学後に友人にきいたところ、このような質問があったのは自分くらいだった全く違う質問だった人もいれば、私と同じような質問だった人もいるようだった。面接での質問内容にはかなり偏りがありそう。
[6] 学部時代と専門分野を変える人に関しては、特にそれに対する質問はなかったらしい(人によるかも)。



なにか気になることがあれば@rosev838まで。

加筆修正していくかもしれません:D